「記録が終わらなくて毎日残業……」「記録のために夜勤の仮眠時間がつぶれる」——看護師の悩みの中でも、記録にかかる時間の長さはトップクラスではないでしょうか。
看護記録は患者の安全を守るために欠かせない業務ですが、書き方を工夫すれば時間を大幅に短縮できます。この記事では、現場ですぐに使える記録の効率化テクニックを紹介します。

なぜ看護記録に時間がかかるのか?
記録に時間がかかる原因は、個人のスキルだけでなく環境やシステムにも関係しています。主な原因を整理してみましょう。
1. リアルタイムで記録できていない
業務が忙しいと、つい記録を後回しにしてしまいがちです。しかし、時間が経つほど記憶があいまいになり、記録に余計な時間がかかる悪循環に陥ります。
2. 何をどこまで書けばいいか迷う
「書かなすぎるのも心配だけど、書きすぎると時間がかかる」——この判断に迷うことが、記録時間を伸ばす大きな要因です。
3. 記録のテンプレートやルールが統一されていない
病棟内で記録の書き方が統一されていないと、人によって書く内容やボリュームがバラバラになり、結果的に非効率になります。
4. 電子カルテの操作に慣れていない
電子カルテのショートカットやテンプレート機能を活用できていないと、入力そのものに時間がかかってしまいます。
記録時間を短縮する7つのコツ
コツ1:リアルタイム記録を習慣化する
「やったらすぐ書く」を徹底することが、記録時間短縮のもっとも効果的な方法です。バイタルサイン測定後、処置後、患者との会話後——その場で要点だけメモするか、可能であればそのまま電子カルテに入力しましょう。
日本看護協会の事例では、リアルタイム記録を導入した病棟で記録にかかる時間が平均30%削減されたという報告もあります。
その場でメモを取るには、ポケットから出してすぐ書ける筆記具が要ります。黒・赤・シャープが1本にまとまったタイプを胸ポケットに常備している看護師は多いです。
コツ2:SOAP形式を正しく使いこなす
SOAP形式(S:主観的情報、O:客観的情報、A:アセスメント、P:計画)は、正しく使えば記載内容を整理しやすく、過不足のない記録が書けます。
- S:患者の言葉をそのまま簡潔に記載する(看護師の解釈は入れない)
- O:必要なデータだけに絞る。全データを羅列しない
- A:SとOをもとに、看護師としての判断を短文でまとめる
- P:具体的な計画を「誰が・いつ・何を」で記載する
コツ3:テンプレートを活用する
電子カルテには記録のテンプレート(ひな形)機能が搭載されています。頻繁に記録する内容(入院時アセスメント、手術後観察、退院指導など)は、テンプレートを作成して入力の手間を減らしましょう。

コツ4:標準看護計画をベースにする
看護計画を一から作成するのではなく、標準看護計画をベースにして個別性を追加・修正する方法が効率的です。標準計画の中から患者に該当する項目を選び、必要に応じてカスタマイズすれば、計画作成にかかる時間を大幅に短縮できます。
コツ5:クリニカルパスを積極的に活用する
クリニカルパスが適用されている患者の場合、予定通りの経過であれば「パス通り」「逸脱なし」の記載で済むため、記録量が大幅に減ります。逸脱があった場合のみ詳細を記載すればよいので、メリハリのある記録が可能です。
コツ6:箇条書きを活用する
記録は文章で書く必要はありません。要点を箇条書きにすることで、書く時間も読む時間も短縮できます。特にO(客観的情報)やP(計画)は箇条書きとの相性がよいです。
コツ7:電子カルテのショートカットを覚える
コピー&ペースト、定型文挿入、単語登録など、電子カルテの便利機能を使いこなすだけで入力速度は格段に上がります。自施設のシステムにどのような機能があるか、一度マニュアルを確認してみましょう。
記録時間を短くするということは「手を抜く」ことではありません。「必要な情報を、正確に、効率よく残す」ことが目標です。内容の質は落とさずに、書き方を工夫することがポイントです。
チーム全体で取り組む記録の効率化
記録ルールを統一する
病棟全体で記録のルール(どこまで書くか、どのテンプレートを使うか)を統一すると、個人差が減り、全体の効率が上がります。カンファレンスの議題として取り上げてみましょう。
記録監査の視点を共有する
「何が求められている記録なのか」を監査の視点で共有することで、過剰な記載を防ぎ、適切な量の記録を目指せます。監査で重視されるポイントを理解しておくと、記載内容に迷いが減ります。
AI・音声入力の活用も視野に
記事執筆時点では、音声認識技術を活用した看護記録の入力支援ツールや、AIによる記録下書き生成の取り組みが進んでいます。導入にはセキュリティや正確性の確認が必要ですが、今後の効率化の選択肢として注目されています。

Q&A|よくある疑問に答えます
Q. 記録を短くすると看護の質が下がらない?
適切に情報を取捨選択することは「手抜き」ではありません。むしろ、本当に重要な情報が埋もれずに伝わることで、ケアの質はむしろ向上します。冗長な記録は読み手にとっても負担です。
Q. 先輩に「もっと詳しく書きなさい」と言われるのですが
先輩の指導内容は尊重しつつ、「何の情報が足りないのか」を具体的に確認しましょう。単に量を増やすのではなく、必要な情報を的確に追加する方向で改善するのがベストです。
このやり取りが毎回続くようなら、記録の書き方を扱った本を1冊持っておくと基準が定まります。実例つきのものを選ぶと、自分の記録と見比べながら直せます。
Q. 夜勤中の記録はどのタイミングで書くのがよい?
巡視の直後やケア実施直後にメモを取り、比較的落ち着いている時間帯にまとめて入力するのが一般的です。深夜帯の仮眠前に一通り記録を終わらせておくと、仮眠時間を確保しやすくなります。
まとめ
看護記録の時間短縮は、リアルタイム記録の習慣化、SOAP形式の適切な活用、テンプレートの整備の3つが柱となります。個人の努力だけでなく、チーム全体でルールを統一して取り組むことで、より大きな効果が期待できます。
記録に追われる時間を減らせば、その分を直接的な患者ケアに充てることができます。まずは今日から一つでも試してみてください。
日総研では看護記録に関するセミナーも開催されています。また、NIS看護記録ガイドも参考になります。
電子カルテの便利機能を使いこなそう
多くの看護師が電子カルテの基本操作だけで記録しており、便利な機能の存在を知らないまま時間を費やしているケースが少なくありません。以下の機能を使いこなせるか確認してみましょう。
単語登録(辞書登録)
よく使うフレーズを短縮形で登録しておくと、入力時間を大幅に短縮できます。
- 「ばいたる」→「バイタルサイン:BT ℃、BP /mmHg、P /分、SpO2 %」
- 「いじょうなし」→「異常所見なし。経過良好。引き続き観察を継続する。」
- 「たいいん」→「退院指導実施。内服薬の管理方法、外来受診日、緊急時の連絡先について説明。理解良好。」
テンプレートのカスタマイズ
電子カルテに搭載されているテンプレートは、病棟の実態に合わせてカスタマイズすることで使い勝手が大幅に向上します。不要な入力項目を削除し、よく使う項目を上部に配置するだけでも効果があります。
コピー&ペーストの注意点
前回の記録をコピーして修正する方法は時短に有効ですが、コピー元の情報が古い場合や、患者の状態が変化している場合はそのまま使うと重大なエラーにつながります。コピーした後は必ず内容を確認し、最新の情報に更新してから保存しましょう。

記録を効率化した看護師の体験談
急性期病棟Aさんの場合
「以前は毎日1〜2時間の残業が当たり前でしたが、リアルタイム記録を意識し始めてから残業がほぼゼロになりました。巡視のたびにタブレットで記録を入力する習慣をつけたのが一番の転機でした。最初は面倒でしたが、慣れると終業時に『もう記録が終わってる』状態になるので、精神的にもラクです。」
回復期リハビリ病棟Bさんの場合
「病棟の記録委員として、SOAPの書き方を統一するための勉強会を開催しました。特に『O(客観的情報)に何を書くか』のルールを明確にしたところ、病棟全体の記録時間が平均15分短縮されました。個人差も小さくなったのが良かったです。」
記録と患者ケアのバランスを取るために
記録の効率化を進める際に忘れてはいけないのは、記録は「義務」ではなく「ケアの一部」であるという視点です。記録を書くために患者のそばにいられないのでは本末転倒です。
効率化の目的は「記録を減らすこと」ではなく、「記録にかかる時間を減らして、その分を患者ケアに充てること」です。この意識を持つことで、記録の効率化がより前向きな取り組みになります。
記録に追われる看護師から、記録を味方につける看護師へ。ちょっとした工夫の積み重ねが、毎日の働き方を変えてくれます。
記録の効率化は個人の努力だけでは限界があります。病棟全体で取り組むべきテーマとして、カンファレンスや委員会で提案してみましょう。管理者を巻き込むことで、仕組みレベルの改善が実現しやすくなります。
まず今日からできる一つのこと
記録の効率化は、一度に全部変えようとすると挫折しやすいです。まずは「リアルタイム記録」を1日だけ試してみるところから始めてみましょう。バイタルサインを測定したら、その場で電子カルテに入力する。処置をしたら、ナースステーションに戻る前にメモを取る。たった1日の実験でも、「記録のためにまとめて思い出す時間」が大幅に減ることを実感できるはずです。その小さな成功体験が、効率化の第一歩になります。



