「認知症の患者さんとどう接すればいいかわからない」「同じ質問を何度もされると、つい声が大きくなってしまう」——認知症ケアに悩む看護師は少なくありません。
高齢化が進む日本では、認知症の方と関わる機会はどの診療科でも増えているのが現状です。認知症ケアの基本を押さえておくことは、すべての看護師にとって重要なスキルになっています。
この記事では、認知症ケアの基本的な対応方法と、患者さんとの信頼関係を築くためのコツを解説します。

認知症の基本を理解する
認知症の主な種類
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ症状の出方や進行の仕方が異なります。
- アルツハイマー型認知症:最も多いタイプ。記憶障害から始まり、徐々に見当識障害や判断力の低下が進行する
- 血管性認知症:脳血管障害に伴って発症する。症状が段階的に進行する特徴がある
- レビー小体型認知症:幻視やパーキンソン症状が特徴的。症状に日内変動がみられる
- 前頭側頭型認知症:性格変化や行動異常が目立つ。比較的若い年齢でも発症する
中核症状とBPSD(行動・心理症状)の違い
中核症状は脳の器質的変化によって起こる症状で、記憶障害、見当識障害、実行機能障害などがあります。一方、BPSD(行動・心理症状)は中核症状をベースに、環境や心理的要因が加わって生じる徘徊、暴言・暴力、不安・焦燥、妄想などの症状です。
ケアのポイントは、BPSDの背景にある原因を理解して適切に対応することです。
この「中核症状とBPSDの切り分け」は、現場で見よう見まねでやっていると曖昧になりがちな部分です。手元に1冊、事例ベースで整理された本を置いておくと、迷ったときに立ち返る基準になります。
認知症ケアの基本姿勢
その人の尊厳を大切にする
認知症であっても感情は豊かに残っています。叱ったり否定したりする対応は、患者さんの自尊心を傷つけ、BPSDを悪化させる原因になります。一人の大人として敬意を持って接することが基本です。
パーソン・センタード・ケアを意識する
パーソン・センタード・ケアとは、認知症の方を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立ってケアを行うという考え方です。「その人にとってどんなケアが望ましいか」を常に考えましょう。
非言語コミュニケーションを活用する
認知症が進行すると言葉の理解が難しくなりますが、表情・声のトーン・身振り手振り・タッチングなどの非言語コミュニケーションは伝わりやすいとされています。穏やかな表情で目を合わせ、ゆっくり話しかけることを心がけましょう。

場面別の対応方法
同じ質問を繰り返す場合
「さっきも言ったでしょう」と言いたくなりますが、本人にとっては毎回が初めての質問です。同じ内容でも穏やかに答える、話題を自然に変える、視覚的な掲示物で情報を補うなどの工夫が有効です。
帰宅願望がある場合
「家に帰りたい」という訴えには、まず「帰りたいんですね」と気持ちを受け止めましょう。無理に制止するのではなく、散歩に誘ったり、好きな活動に注意を向けたりして、安心感を与えることが大切です。
暴言・暴力がある場合
暴言や暴力の背景には、不安、恐怖、痛み、環境の変化など何らかの原因があることが多いです。まずは安全を確保した上で、落ち着いたトーンで声をかけ、原因を探ることが重要です。
食事を拒否する場合
食べ物の認識ができない、食べ方がわからない、義歯の不具合など、拒否の原因はさまざまです。食事の場の雰囲気を整える、食べやすい形態にする、一緒に食べるなどの工夫を試してみてください。
夜間の不穏・せん妄がある場合
認知症の方は環境の変化に敏感で、入院をきっかけに夜間のせん妄を起こすことがあります。日中の活動量を増やす、夜間の照明を調整する、見当識を保つための声かけを行うなどの対応が有効です。
認知症ケアでやってはいけないこと
- 「さっきも言ったでしょう」と叱る
- 行動を身体拘束で制限する(安易な身体拘束は禁止)
- 子ども扱いした言葉遣いをする
- 本人の前でネガティブな話をする
- 急かしたり無理に行動させようとする
認知症ケアのスキルアップ方法
認知症ケアに関する研修を受ける
院内の認知症ケア研修や、外部のセミナー・eラーニングなどを積極的に活用しましょう。認知症の方の行動の理由を理解できるようになると、ケアの質が大きく向上します。
認知症看護認定看護師を目指す
より専門的なスキルを身につけたい方は、認知症看護認定看護師の資格取得を目指すのもおすすめです。認知症の方への適切な対応やコミュニケーション技術を体系的に学ぶことができます。
認知症ケア専門士の取得も選択肢に
日本認知症ケア学会が認定する「認知症ケア専門士」は、認知症ケアに関する知識とスキルを証明する資格です。3年以上の実務経験があれば受験できます。
チームで振り返りを行う
難しいケースに遭遇したときは、チームで事例を共有し、対応方法を振り返りましょう。一人で抱え込まず、多職種で連携してケアにあたることが大切です。

認知症ケアで看護師自身のストレスを管理する
バーンアウトに注意する
認知症ケアは精神的な負担が大きく、燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥るリスクがあります。自分自身の心身の状態にも気を配り、つらいと感じたら無理をしないことが大切です。
ストレス発散の方法を持っておく
仕事以外の趣味や運動、友人との交流など、自分なりのストレス解消法を持っておきましょう。同僚や先輩に悩みを打ち明けるだけでも気持ちが軽くなることがあります。
認知症ケアに役立つアプローチ手法
バリデーション
バリデーションは、認知症の方の言動を否定せず、その感情や体験に共感しながらコミュニケーションを取る手法です。たとえ現実とは異なる発言であっても、その背景にある感情を受け止めて対応することで、本人の安心感につながります。
ユマニチュード
フランスで生まれたケア技法で、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱を基本にしたコミュニケーション方法です。正面から目を合わせて穏やかに話しかけるなど、「あなたを大切に思っている」というメッセージをケアの中で伝えることを重視しています。
回想法
過去の思い出を語ってもらうことで、心理的な安定や自己肯定感の向上を図る手法です。昔の写真や音楽、懐かしい生活用品などを活用すると、認知症の方も生き生きと話してくれることがあります。
こうした場面では、手を動かしながら自然に会話が生まれる道具があると進めやすくなります。昔の風景や季節の行事を題材にした塗り絵は、レクリエーションの入り口として取り入れている施設も多いようです。
よくある質問(Q&A)
Q. 認知症の方に嘘をついてもいいのですか?
「嘘をつく」というよりも、「不安を取り除く声かけをする」という考え方が大切です。「家に帰りたい」と言われたときに「もう少ししたら帰れますよ」と安心させる声かけは、本人の心の安定のために有効な場合があります。
Q. 身体拘束はどうしても避けられないのでしょうか?
身体拘束は原則として行わないのが基本です。切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす場合にのみ、やむを得ず行うことがありますが、常に代替手段を検討し、最小限にとどめるべきです。
Q. 家族への対応で気をつけることは?
認知症の方の家族は、大きな不安やストレスを抱えていることが多いです。家族の気持ちに寄り添いながら、認知症の症状や対応方法について丁寧に説明し、利用できる支援制度の情報提供も行いましょう。
Q. 急性期病棟でも認知症ケアは必要ですか?
急性期病棟でも入院患者の中に認知症を合併している方は多く、術後せん妄や環境変化による不穏の対応が求められます。認知症ケアの基本を知っておくことは、診療科を問わずすべての看護師に必要なスキルです。
Q. 認知症の方の転倒リスクを減らすには?
環境整備が基本です。ベッド周りの障害物を除去する、夜間の照明を確保する、トイレへの動線をわかりやすくする、履物の確認をするなどの対策が有効です。センサーマットの活用も選択肢のひとつです。
まとめ
認知症ケアは、正しい知識と適切な対応スキルを身につけることで、患者さんにもスタッフにも良い結果をもたらします。
- 認知症の種類と中核症状・BPSDの違いを理解する
- 否定せず、その人の尊厳を大切にした対応を心がける
- BPSDの背景にある原因を探り、適切に対応する
- 認知症ケアの研修や資格取得でスキルアップを目指す
- 看護師自身のストレス管理も忘れずに
認知症の方と関わる機会は今後ますます増えていきます。一人ひとりの患者さんに寄り添ったケアを実践していきましょう。
参考:朝日生命 認知症ケアの基本とポイント / レバウェル看護 認知症ケアに携わる看護師のストレス / マイナビ看護師 認知症認定看護師とは



