「待ち時間が長い」「説明が不十分だった」「対応が冷たい」——看護師であれば、患者やその家族からのクレームを受けた経験が一度はあるのではないでしょうか。
クレームは精神的な負担が大きいものですが、適切な対応方法を知っていれば、必要以上に恐れることはありません。この記事では、看護師が現場で使えるクレーム対応の実践ステップと、クレームを受けにくくするための予防策を詳しく解説します。

クレーム対応の基本5ステップ
患者や家族からクレームを受けたときは、以下の5つのステップに沿って対応するのが基本です。
ステップ1:まずは傾聴する
患者が話している間は、こちらの意見や反論を挟まずに最後まで耳を傾けて聴くことが大切です。途中で口を挟むと「話を聞いてくれない」と感じさせ、怒りがエスカレートする原因になります。
- 相手の目線に合わせる(立っている患者には立って、座っている患者には腰を落として対応する)
- うなずき・相づちで「聞いていますよ」というサインを送る
- メモを取る姿勢を見せると、真剣に受け止めている印象を与えられる
ステップ2:感情に対して謝罪する
事実の当否はひとまず置いて、「不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と感情に対して謝罪します。これは過失を認めることではなく、相手の感情を受け止める姿勢を示す行為です。
ステップ3:事実確認を行う
患者の訴えを聞き終えたら、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を確認しながら事実関係を整理します。適宜復唱して「こういうことでお間違いないでしょうか」と認識のズレを防ぎましょう。
ステップ4:解決策を提案する
事実確認を踏まえて、自分の権限で対応できる範囲の解決策を提案します。すぐに解決できない場合は「担当者に確認してお返事いたします」「上司と相談のうえ、改めてご連絡いたします」と伝え、曖昧な回答は避けましょう。
ステップ5:上司・先輩に報告する
クレーム対応が終わったら、必ず上司や先輩に報告します。自分一人で抱え込まず、チームで共有することが再発防止と精神的な負担軽減の両方につながります。
クレーム対応の鉄則は「傾聴→謝罪→事実確認→解決策→報告」。この順番を守ることで、冷静かつ適切な対応ができます。
言い回しのバリエーションをもう少し増やしたいときは、クレーム対応を扱った書籍に具体的なフレーズ例がまとまっています。医療現場以外の事例でも応用が利きます。
クレームのパターン別 対応のコツ
待ち時間に関するクレーム
「いつまで待たせるんだ」という声は、外来・救急で特に多いクレームです。
- 「お待たせして申し訳ございません」と謝罪する
- 待ち時間の目安を具体的に伝える(「あと20分ほどでお呼びできる見込みです」)
- 待っている間に具合が悪くなったら遠慮なく声をかけてほしい旨を伝える
説明不足に関するクレーム
「何の検査かわからないまま連れて行かれた」「薬の説明がなかった」というクレームは、コミュニケーション不足が原因です。
- まず「説明が不足しており申し訳ございません」と謝罪する
- 改めてわかりやすい言葉で説明し直す
- 「ご不明な点はほかにございませんか」と確認する
態度・言葉遣いに関するクレーム
「あの看護師の態度が冷たかった」「上から目線で話された」という指摘は、無意識の言動が原因となることが多いです。
- 「不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございません」と謝罪する
- 当事者本人への聞き取りと事実確認を行う
- 言い訳をせず、改善の意思を示す

クレームを受けにくくするための予防策
先回りの声かけを習慣にする
待ち時間が発生しそうなとき、処置の前、検査の案内時など、患者が不安や不満を感じそうなタイミングで先回りして声をかけることで、クレームの多くを未然に防げます。
わかりやすい説明を心がける
医療用語をそのまま使わず、患者にわかる言葉に言い換えて説明する習慣をつけましょう。「血圧が高めです」より「血圧の数値がいつもより少し上がっていますが、心配するほどではありません」の方が安心感を与えられます。
表情と声のトーンに気を配る
忙しいときほど表情が硬くなり、声のトーンが低くなりがちです。意識的に穏やかな表情と明るい声のトーンを保つことで、患者との信頼関係が築きやすくなります。
チームで情報を共有する
「この患者さんは説明を丁寧にしてほしい」「ご家族が心配しているので状況を伝えてほしい」といった情報をチームで共有しておくと、対応の統一感が生まれ、クレームの予防につながります。
理不尽なクレーム・ハラスメントへの対応
中には、暴言・威圧的な態度・セクハラなど、通常のクレーム対応の範囲を超える行為もあります。
一人で対応しない
理不尽なクレームや暴言を受けた場合は、一人で対応せず、すぐに上司や先輩を呼ぶことが大切です。複数人で対応することで、エスカレートを防ぎ、自分の身を守ることができます。
記録を残す
対応の経緯・発言内容・日時を記録に残しておくことが重要です。悪質なケースでは、法的対応が必要になる場合もあるため、客観的な記録が証拠になります。
カルテとは別に、時系列のメモを残せるノートを1冊決めておくと、あとから経緯を追いやすくなります。
相談先を知っておく
- 院内の医療安全管理室・患者相談窓口
- 看護部長・看護師長
- 外部機関:医療安全支援センター、都道府県の看護協会
身体的な暴力や明らかなハラスメント行為があった場合は、その場から離れ、安全を確保することを最優先にしてください。
クレーム対応後のメンタルケア
自分を責めすぎない
クレームを受けると「自分が悪かったのでは」と落ち込みがちですが、すべてが看護師個人の責任とは限りません。システムの問題や患者側の誤解が原因であるケースも多いです。
同僚・先輩に話を聞いてもらう
つらい気持ちを一人で抱え込まず、同僚や先輩に話を聞いてもらいましょう。同じ経験をした人からの共感やアドバイスが、気持ちの切り替えに役立ちます。
帰宅後に気持ちを切り替えるきっかけとして、好きな香りを部屋に広げるという方も少なくありません。
次に活かす視点を持つ
クレームの中には、業務改善のヒントが含まれていることもあります。「次はこうしよう」と前向きに捉えることで、クレーム対応の経験が看護師としての成長につながります。

クレームを受けやすい場面と事前対策
入院時のオリエンテーション
入院生活のルール説明が不十分だと、あとから「聞いていない」というクレームにつながります。パンフレットと口頭説明を併用し、質問の時間を設けることで理解度が上がり、トラブルを予防できます。
検査・処置の前
「何をされるかわからない」という不安がクレームの原因になることがあります。検査の目的・所要時間・痛みの有無を事前にわかりやすく説明しておきましょう。
ナースコールへの応答
ナースコールを押してもなかなか来てもらえない、という不満は患者からのクレームで常に上位に入ります。すぐに対応できない場合は「今○○の対応中なので、5分後にお伺いします」と一言伝えるだけでも、患者の印象は大きく変わります。
退院時の説明
退院後の生活指導や服薬説明が不十分だと、退院後に「教えてもらっていない」というクレームにつながることがあります。口頭説明に加えて、書面でのまとめを渡すのが効果的です。
クレーム対応力を高める日々の習慣
「接遇の5原則」を意識する
医療現場での接遇の基本は、挨拶・表情・身だしなみ・言葉遣い・態度の5つです。この5つを日頃から意識するだけで、クレームの発生率は大きく下がります。
自己流になっていないか確認したい方は、医療現場向けの接遇本で言葉遣いや所作の基準をひととおり押さえておくと安心です。
患者の名前を呼ぶ
「○○さん、お待たせしました」のように名前を呼ぶことで、患者は「自分を見てくれている」と感じます。名前を呼ぶだけで信頼関係の構築がぐっと早まるため、意識的に取り入れましょう。
「報連相」を徹底する
チーム内の情報共有がしっかりしていれば、「あの看護師には伝えたのに、別の看護師は知らなかった」というタイプのクレームを防げます。申し送りやカルテ記録を通じて、患者に関する情報を漏れなく共有しましょう。

Q&Aコーナー
Q. クレーム対応中に泣きそうになったらどうすればいいですか?
無理に我慢する必要はありません。「少々お待ちください」と断って一度その場を離れ、深呼吸をしてから戻りましょう。上司に交代を依頼するのも適切な判断です。
勤務後にひと息つきたいときのために、休憩室のロッカーにお気に入りのハーブティーを置いている人もいます。
Q. 患者のクレームにどこまで看護師が対応すべきですか?
看護業務の範囲で解決できる内容(声かけ・説明・待ち時間の案内など)は看護師が対応し、医療行為に関する不満や施設全体の方針に関する要望は、医師や管理者に引き継ぐのが適切です。
Q. 同じ患者から繰り返しクレームが来る場合はどうすればいいですか?
同じ内容のクレームが繰り返される場合は、根本的な原因の解消が必要です。チームカンファレンスで対応方針を統一し、看護計画に患者の要望やケアの注意点を明記しておくことで、スタッフ間の対応のばらつきを防ぐことができます。それでも解決しない場合は、師長や患者相談窓口に報告して組織的な対応を依頼しましょう。
Q. クレームの内容が事実と異なる場合、反論してもいいですか?
事実と異なる指摘に対して感情的に反論するのは逆効果です。まずは相手の気持ちを受け止めたうえで、「事実関係を確認させてください」と冷静に伝えましょう。事実確認の結果は、上司同席のもとで丁寧に説明するのが望ましい対応です。
まとめ
クレーム対応は「傾聴→謝罪→事実確認→解決策→報告」の5ステップが基本です。先回りの声かけやわかりやすい説明を習慣にすることで、クレームそのものを減らすこともできます。
理不尽なクレームには一人で対応せず、チームや上司の力を借りましょう。クレーム対応の経験は、看護師としてのコミュニケーション力を大きく成長させてくれます。
参考:レバウェル看護「クレーム対応の基本5ステップ」/MCナースネット「クレームを受けやすい看護師の特徴」/B-leafクリニック「看護師のクレーム対応手順」



