「先生に電話で報告したけど、何が言いたいかわからないと言われた」「報告のときに緊張して、大事なことを伝え忘れてしまった」——医師への報告に苦手意識を持つ看護師は多いのではないでしょうか。
SBAR(エスバー)は、情報を「状況・背景・評価・提案」の4つに整理して伝えるコミュニケーション手法です。もともとアメリカ海軍で開発された方法で、医療安全の分野でも広く採用されています。
この記事では、SBARの基本的な使い方と具体的な例文を紹介し、明日から使える報告術を身につけていきましょう。

SBAR(エスバー)とは
SBARの4つの要素
SBARは以下の4つの頭文字を取った報告フレームワークです。
- S(Situation:状況):今、患者さんに何が起きているか
- B(Background:背景):入院の経緯や既往歴など、状況を理解するための背景情報
- A(Assessment:評価):看護師としてどう判断しているか
- R(Recommendation:提案):医師にどうしてほしいか
なぜSBARが必要なのか
医療現場でのコミュニケーションエラーは、医療事故の大きな原因のひとつです。SBARを使うことで情報の抜け漏れを防ぎ、短時間で的確な報告ができるようになります。
特に電話での報告や急変時など、限られた時間で正確な情報を伝える場面でSBARは威力を発揮します。
逆に言えば、電話をかける前に4項目を書き出せるかどうかが勝負です。白衣のポケットに入るメモ帳を1冊決めておくと、ナースステーションのどこにいても書き出す場所に困りません。
SBAR報告の具体的な例文
例文1:急な血圧低下を報告する場合
S(状況)
「○○病棟の看護師△△です。□□号室の××さんについてご連絡です。先ほどの検温で血圧が82/50mmHgまで低下しています。」
B(背景)
「××さんは胃がん術後3日目で、入院前の普段の血圧は130/80mmHg前後です。本日朝の血圧は120/70mmHgでした。ドレーンからの排液に異常はありませんが、尿量がこの2時間で20mlと減少しています。」
A(評価)
「術後出血または脱水による血圧低下の可能性があると考えています。」
R(提案)
「診察していただけますか。必要であれば輸液の追加もご検討いただきたいです。」
例文2:発熱を報告する場合
S(状況)
「○○病棟の看護師△△です。□□号室の××さんが38.5℃の発熱があります。」
B(背景)
「××さんは肺炎で入院中、本日で入院7日目です。抗菌薬はセフトリアキソンを投与中で、昨日まで解熱傾向でした。入院時のCRPは8.5でした。」
A(評価)
「抗菌薬の効果が不十分か、別の感染源が出現した可能性があると考えます。」
R(提案)
「血液検査と血液培養の追加をご検討いただけますでしょうか。また、解熱剤の使用についても指示をお願いします。」

例文3:意識レベルの変化を報告する場合
S(状況)
「○○病棟の看護師△△です。□□号室の××さんの意識レベルが低下しています。1時間前はJCS 0(清明)でしたが、現在JCS 10(呼びかけに開眼する)です。」
B(背景)
「××さんは脳梗塞で入院中、入院5日目です。既往に心房細動があり、ワルファリンを内服しています。今朝のPT-INRは2.8でした。」
A(評価)
「脳梗塞の増悪もしくは出血性変化の可能性があると考えます。瞳孔の左右差はありませんが、右上肢にやや脱力が見られます。」
R(提案)
「至急の診察と、必要であれば頭部CTの施行をお願いしたいです。」
I-SBARCで報告の精度をさらに上げる
SBARをさらに発展させたI-SBARC(アイエスバーク)という手法もあります。SBARの前にI(Identify:自己紹介)、後にC(Confirm:復唱確認)を加えたものです。
- I(Identify):「○○病棟の看護師△△です」と自分を名乗る
- S・B・A・R:従来のSBARで報告
- C(Confirm):医師からの指示を復唱して確認する
特に電話報告では相手の顔が見えないため、最初に名乗ることと、最後に指示を復唱確認することが事故防止に直結します。
SBAR報告を上達させるコツ
報告前にメモで整理する
電話をかける前に、S・B・A・Rの項目ごとに伝えたい内容をメモに書き出しましょう。慌てて電話すると情報が整理されず、医師に的確に伝わらない原因になります。
報告に必要な情報を事前に揃える
報告の際に医師から追加の質問が来ることを想定して、以下の情報は手元に用意しておきましょう。
- 直近のバイタルサイン
- 最新の検査データ
- 内服薬のリスト
- アレルギー情報
- 点滴の種類と速度
A(評価)を省略しない
看護師の中には「医師に判断を委ねるべき」と考え、A(評価)を省略してしまう方がいます。しかし、患者さんのそばにいる看護師だからこそ気づけることがあるため、自分の考えを積極的に伝えることが大切です。
急変時は結論を先に伝える
緊急性が高い場面では、S(状況)の冒頭で「急変です」「至急お願いします」と伝えて、報告の緊急度を明確にしましょう。

SBARを使う場面とタイミング
医師への電話報告
夜間や休日に当直医へ電話する場面は、SBARが最も活躍するシーンです。短い通話時間で必要な情報を漏れなく伝えるために、SBARの型は非常に有効です。
申し送り
交代勤務の申し送りでもSBARの考え方は使えます。担当患者の状況、経過、現在の状態評価、次の勤務帯でやるべきことを整理して伝えましょう。
多職種カンファレンス
リハビリスタッフや薬剤師、ソーシャルワーカーとのカンファレンスでも、患者情報を共有する際にSBARの型を意識すると、わかりやすい発言ができます。
報告時にやりがちな失敗
- 経過を時系列で長々と話してしまう(結論が見えない)
- 主観的な感想だけで客観的なデータを伝えない
- 「何をしてほしいか」を伝えずに報告を終える
- 医師の指示を復唱確認しない
よくある質問(Q&A)
Q. SBARのA(評価)で何を言えばいいかわかりません。
「○○の可能性があると考えます」という形で、今の状態から予測される病態や考えられるリスクを伝えましょう。正解である必要はなく、看護師としての臨床判断を述べることに意味があります。
Q. 医師に怒られるのが怖くて報告をためらってしまいます。
患者さんの安全が最優先です。報告しないことで患者さんの状態が悪化するリスクの方がはるかに大きいです。SBARで情報を整理してから報告すれば、的確に伝わるため不要な指摘を受けにくくなります。
Q. 日常の些細な変化もSBARで報告するべきですか?
日常的な報告すべてにSBARを使う必要はありませんが、「この変化は報告したほうがよいかもしれない」と感じたときは、SBARで整理してみましょう。整理することで報告の必要性も判断しやすくなります。
Q. 新人看護師がSBARを身につけるにはどうすればいい?
まずはSBARのテンプレートを印刷してポケットに入れておくのがおすすめです。報告前にテンプレートに沿って要点を書き込んでから電話すると、情報の抜け漏れを防げます。先輩の報告の仕方を観察して真似するのも効果的な学習法です。
報告の型だけでなく、検査値の基準値や急変時の対応手順もまとめて持ち歩きたい場合は、白衣に入るサイズの看護ポケットブックが便利です。
Q. 報告後に医師からの指示を聞き逃したらどうする?
遠慮せずにもう一度確認しましょう。「申し訳ありません、もう一度お願いできますか」と伝えれば問題ありません。指示を聞き逃したまま業務を行うほうが、はるかに危険です。復唱確認(リードバック)を習慣にすることで、聞き逃しの防止にもつながります。

まとめ
SBARは、看護師の報告スキルを飛躍的に向上させるコミュニケーションツールです。
- SBARは「状況・背景・評価・提案」の4要素で情報を整理する報告手法
- 報告前にメモで整理し、必要な情報を手元に用意しておく
- A(評価)を省略せず、看護師としての判断を積極的に伝える
- I-SBARCで自己紹介と復唱確認を加えるとさらに安全
- 急変時は結論(緊急度)を先に伝える
SBARを使いこなせれば、医師や他のスタッフとのコミュニケーションがスムーズになり、患者さんの安全にも直結します。ぜひ明日からの業務で取り入れてみてください。
参考:ナース専科 SBARの分かりやすい報告の仕方 / 看護師が使うSBARの例文 / 医療マネジメント認定士 SBAR解説



