「先輩からの暴言がひどい」「ミスをしたときに人格を否定された」「特定の人だけ無視される」——看護師の職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、残念ながら珍しい話ではありません。
パワハラ防止法はすべての職場に適用されているため、パワハラ対策は使用者の法的義務です。「看護の世界はこういうもの」と我慢する必要はまったくありません。
この記事では、看護師がパワハラを受けた場合の具体的な対処法、証拠の残し方、相談先を詳しく解説します。

看護師の職場で起きやすいパワハラの例
パワハラには法律上6つの類型がありますが、看護師の職場では以下のようなケースが多く報告されています。
1. 精神的な攻撃
- 他のスタッフの前で大声で叱責する
- 「看護師に向いていない」「辞めたら?」と人格を否定する発言をする
- ミスを必要以上に責め続ける
2. 人間関係からの切り離し
- 特定の看護師だけ無視する
- カンファレンスや申し送りで情報を共有しない
- 休憩時間に孤立させる
3. 過大な要求
- 明らかに一人では無理な業務量を押し付ける
- 十分な指導なしに難しい業務を担当させる
4. 過小な要求
- 看護業務から外して雑用ばかりさせる
- 能力や経験に見合わない簡単な仕事だけをやらせる
以下はパワハラに該当しない場合があります
- 業務上必要な指導・教育(ただし、人格を否定する言い方はNG)
- 合理的な理由に基づく業務分担の変更
- 安全管理のための厳しい注意

パワハラを受けたときの対処法
ステップ1:証拠を残す
パワハラの対処で一番大切なのは証拠を残すことです。「言った・言わない」の争いにならないよう、以下の方法で記録を取りましょう。
証拠として有効なもの
- 日記・メモ:日時・場所・誰が・何を言ったか/したかを具体的に記録
- 音声録音:ICレコーダーやスマートフォンで録音(自分が当事者なら録音は適法)
- メール・メッセージ:パワハラに関連するやり取りのスクリーンショット
- 診断書:パワハラが原因で体調を崩した場合の医師の診断書
- 目撃者の証言:信頼できる同僚がいれば、協力をお願いする
ステップ2:信頼できる人に相談する
一人で抱え込まず、まずは信頼できる同僚や先輩、家族に相談しましょう。話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になりますし、客観的なアドバイスがもらえることもあります。
ステップ3:職場の相談窓口に相談する
パワハラ防止法により、すべての事業主はパワハラ相談窓口の設置が義務付けられています。病院内にハラスメント相談窓口がある場合は、そこに相談しましょう。
ステップ4:外部の相談窓口に相談する
職場内で解決が難しい場合や、相談窓口自体が機能していない場合は、外部の機関に相談します。

パワハラの相談先一覧
1. 院内のハラスメント相談窓口
まずは職場内の窓口に相談するのが一般的な流れです。ただし、加害者が管理職だったり、窓口が形骸化していたりする場合は、外部に相談しましょう。
2. 都道府県労働局(総合労働相談コーナー)
無料・予約不要で相談でき、必要に応じてあっせん(話し合いによる解決の仲介)を行ってくれます。全国の労働局に設置されています。
3. 労働条件相談ほっとライン
電話番号:0120-811-610(フリーダイヤル)
平日夜間と土日にも対応しているため、日中に相談できない看護師にも利用しやすい窓口です。
4. みんなの人権110番(法務局)
電話番号:0570-003-110
法務局が運営する人権相談の窓口です。パワハラだけでなく、セクハラや差別などの人権侵害全般について相談できます。
5. 弁護士(法テラス)
法的な対応(損害賠償請求・労災申請など)が必要な場合は、弁護士に相談しましょう。法テラスでは無料法律相談を実施しています。
法テラスの電話番号:0570-078374
6. 労働組合
職場に労働組合がなくても、外部の合同労組(ユニオン)に個人で加入して、団体交渉を行うことが可能です。
相談先選びのポイント
- 話し合いで解決したい → 総合労働相談コーナー
- 法的な措置を検討 → 弁護士・法テラス
- 匿名で相談したい → ほっとライン・みんなの人権110番
- 職場と交渉したい → 労働組合
パワハラが原因で体調を崩した場合
パワハラが原因でうつ病や適応障害などを発症した場合、労災として認められる可能性があります。パワハラが原因であることを医師に伝え、診断書を取得したうえで、労災申請を検討しましょう。
また、休職が必要な場合は傷病手当金を活用できます。

パワハラを受けないための予防策
- 一人で孤立しない:同期や信頼できる同僚とのつながりを保つ
- コミュニケーションを記録に残す:重要なやり取りはメールやメモで
- 自分の権利を知っておく:パワハラ防止法や労働基準法の基本を理解する
- 異変を感じたら早めに相談する:放置すると状況が悪化しやすい
Q&A:看護師のパワハラに関するよくある質問
Q. パワハラの加害者が師長の場合、どうすれば良いですか?
師長が加害者の場合は、看護部長や人事部門、もしくは外部の相談窓口に相談しましょう。院内で解決できない場合は、労働局や弁護士に相談するのも有効です。
Q. パワハラの証拠がない場合でも相談できますか?
証拠がなくても相談自体は可能です。ただし、対処や法的手続きを進めるうえでは証拠が重要になるため、今からでも記録を取り始めることをおすすめします。
Q. パワハラを受けて退職した場合、自己都合退職になりますか?
パワハラが退職理由であることをハローワークに申し出ると、「特定受給資格者」として会社都合退職と同等の扱いを受けられる可能性があります。失業保険の給付日数や給付制限期間が有利になります。
まとめ
パワハラは看護師の心身を蝕む深刻な問題です。「看護の世界では当たり前」と我慢する必要はありません。パワハラ防止法により、すべての職場にパワハラ防止措置が義務付けられているのです。
パワハラを受けたら、まず証拠を残し、信頼できる人や専門の相談窓口に相談しましょう。一人で抱え込まず、適切な対処を取ることが、自分を守る第一歩です。
参考:厚生労働省 パワーハラスメント対策 / 法テラス / 日本看護協会
パワハラ防止法の概要と看護師への影響
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)とは
パワハラ防止法は、すべての事業主に対してパワハラ防止のための措置を講じることを義務付ける法律です。大企業は令和2年6月から、中小企業は令和4年4月から適用されています。
事業主に義務付けられている措置
- パワハラ防止の方針の明確化と周知・啓発
- 相談窓口の設置と適切な対応
- 事後の迅速かつ適切な対応
- 相談者のプライバシー保護
- 相談したことを理由とする不利益取り扱いの禁止
相談窓口が設置されていない病院は、パワハラ防止法に違反しています。自分の職場に相談窓口があるか、確認してみましょう。
パワハラの6つの類型を看護師の視点で解説
1. 身体的な攻撃
物を投げつける、書類で叩くなどの行為です。看護の現場では、手術器具や医療器具を投げつけるなどのケースが報告されています。
2. 精神的な攻撃
看護師のパワハラで最も多い類型です。他のスタッフの前での叱責、人格否定的な発言、「看護師失格」などの言葉は明確なパワハラです。
3. 人間関係からの切り離し
特定の看護師を無視する、情報を共有しない、仲間外れにするなどの行為です。患者の安全にも関わる重大な問題です。
4. 過大な要求
一人では対応できない業務量を押し付ける、十分な指導なしに難しい処置を担当させるなどです。
5. 過小な要求
看護業務から外して雑用ばかりさせる、能力に見合わない単純作業だけをやらせるなどです。
6. 個の侵害
プライベートに過度に立ち入る、恋愛関係や家庭環境について執拗に聞くなどの行為です。

パワハラが多い職場の特徴
パワハラが起きやすい職場には、いくつかの共通点があります。転職先を選ぶ際の参考にしてください。
- 離職率が高い:スタッフの入れ替わりが激しい職場は注意
- 管理職のマネジメント研修がない:指導とパワハラの線引きを理解していない上司がいる
- 相談窓口が形骸化している:窓口はあるが、実際に機能していない
- 「厳しさ=愛情」という文化がある:旧態依然とした指導方針
- 長時間労働が常態化している:余裕のなさがハラスメントを生みやすい
面接時や施設見学時に、スタッフ同士のコミュニケーションの様子を観察したり、転職エージェントに内部の雰囲気を聞いたりすることで、パワハラのリスクを事前に把握できます。
パワハラからの回復と次のステップ
パワハラを受けた心身のダメージは、時間をかけて回復する必要があります。
- まずは安全な環境に身を置く(休職や退職も選択肢)
- 専門家(精神科医・カウンセラー)に相談する
- 自分を責めない:パワハラの責任は加害者にある
- 回復してから次のキャリアを考える
- 転職先はパワハラ防止に積極的な施設を選ぶ

最後に:パワハラに負けないために
パワハラは受ける側に一切の非はありません。悪いのは加害者であり、それを放置する組織です。「自分が悪いのかもしれない」「もっと頑張れば認めてもらえるかもしれない」と思う必要はまったくありません。
パワハラに遭ったとき、最も大切なのは自分の心身を守ることです。証拠を集め、信頼できる人に相談し、必要であれば専門家の力を借りてください。環境を変える勇気を持つことが、自分を守る最善の方法です。
看護師は社会にとって欠かせない存在です。パワハラで心が折れてしまう看護師を一人でも減らすために、一人ひとりが声を上げていくことが大切です。あなたの行動が、後輩看護師の環境改善にもつながります。



